日記

32℃

ある種の地獄めいたSNSに日々のあれこれを書き散らす遊びを一年ほど続けていたのだけれど、再ログイン時に必要な情報を紛失してしまい戻れなくなってしまったのでとりあえず古巣に戻ってきた。雨崎として日記を書くのは随分ひさしぶり、というかまともに日記…

折紙に戀文をしたためる

毛布を抱いて眠る姿はいつみても寂しげな幼子のようで、私はほんのすこし悲しくなる(かつて置き去りにした何かをそこに投影しているのかもしれない)。頭を撫でると薄く眼を開けて「おはよう」より先に私の名を口にする君、まるで主人の帰りを待つ犬のようで…

「これはわたしのあやまちです」

アメリカの鱒釣りはこれぞアメリカの鱒釣りといった内容で最後にマヨネーズで締め括るあたりもたいへんアメリカの鱒釣りらしくアメリカの鱒釣りについて不勉強な私はブローティガン氏のアメリカの鱒釣り的な筆致に感心するほかなかったのだけれどもそれはそ…

晝の焦燥

5日で2616頁。借りたぶんを返して予約した図書を受け取り2日で5冊。なにか変だと思いつつも頁を繰る指先を躾けられないのだからこれはもう仕方のないことと開き直り今日もせっせと活字をたべる。夜があっという間に過ぎていく。 クワズイモの葉先からぽたり…

遠因のアンスト

歩道に打ち捨てられた灰色の死骸と少女の髪を束ねる桃色のリボンと躑躅の植えこみに混生する紫色と獲物を咥え低空を滑る茶色の鳥。以上が先週の私が知覚した色で今週の私は雪柳のけぶるような白色と桜の幽かな肌の色などを半ば意識的に記憶していったが眠り…

橙色の網代笠

黒く湿った坂道を確かな足取りですっすっとのぼり行く御坊がひとり。数十メートル後方を自転車で走っていた私はその姿に目を奪われ思わず足を止めた。この辺りで御坊を見るのはそう珍しいことでもないので普段なら対向であれば目礼をしてすれ違い追い越す場…

整地後の雑草

曇天が無遠慮に舐めた室内の平常は陽光のひと射しにより一瞬で回復し更には見慣れた机上の配置までもが思いがけず清められたのには驚いた。こんな些細なことで、と思い、つまり普段はこうした変化を些事と捉えているのかと自分にがっかりする。 いいかげん大…

さんびかのこしらえ

太宰治の「正義と微笑」という物語を読む。私は彼の書いた例のあれを中学生の頃に読んで大層不愉快になり以来この作家の書くものは忌避してきたのだがそれでも何かを厭うという強い意志や姿勢を持たなかった当時の私は嫌うということを確定させるには先ず嫌…

自惚れた蜘蛛は

レコードはとうに止まっていたのに私だけがそれに気づかずにいた。 食べたものが胃で凝って堪らないのでキウイ味の炭酸飲料で中和する。泡立つ豆腐と挽肉を想像して、ぐ、と咽喉を締める。白い陶器に溜まる水は一瞬で濁ってしまうから私のような摂食障害経験…